スピンはビームをちょうど二つに分ける
中性原子のビームを、片側が強く片側が弱い磁場の間に通すと、画面にはぼやけた帯ではなく、くっきりした二つの点だけが現れます。古典物理なら、各原子の小さな磁石は好きな向きを取れるので、上下に連続して滲む帯になるはずです。ところが点はちょうど二つ。これは原子のスピン角運動量成分 Sz がただ二つの値 ±½ℏ しか取らないという、量子化の最も直接的な証拠です。最初の図で古典と量子を手で切り替えながら始めましょう。
装置を横から見た図です。左の源から原子が出発し、中央の磁極の間を通り、右の画面に届きます。上の極が尖っているので磁場が上下に傾き、磁石を上か下へ押す力が生じます。古典双極子に切り替えると、画面には上下に連続して滲んだ縦の帯が現れます。量子スピン ½ に変えると、その帯は消え、上と下のちょうど二点だけが残ります。ここで初めて出る Sz はスピンの z方向成分で、エントロピー S とは別の記号です。量子化が目にそのまま見える瞬間です。
二点がどれだけ離れるかは磁場の傾きが決めます。磁石が受ける力は Fz = μz(∂Bz/∂z) です。つまり磁気モーメント μz に z方向の傾き ∂Bz/∂z を掛けた分です。スライダーで傾きを大きくすると、上の点はより上へ、下の点はより下へ押され、二点の間隔がともに広がります。傾きが 0 なら二点は中央に集まり、分裂が消えます。点が二つという事実はそのままですが、どれだけ離れるかは装置が作る力次第です。
なぜちょうど二点なのでしょう。スピンが ½ だからです。一般にスピン j の粒子は 2j+1 個の点に分かれます。ステッパーで j を ½, 1, 3/2 と上げると、点は 2, 3, 4 個に増えます。逆に読めば、画面の点の数を数えるだけでその粒子のスピンが分かります。点が二つならスピン ½、三つなら 1、四つなら 3/2。分かれた線の数こそが量子数の指紋です。
二点に名前を付けましょう。上の点は Sz = +½ℏ、つまり ms = +½ の上の状態 |↑⟩、下の点は Sz = −½ℏ、ms = −½ の下の状態 |↓⟩ です。ここで ms は常に下付きで書くスピン磁気量子数なので、質量 m と混同しません。磁気モーメントは μz ≈ ∓μB で、スピンが上ならモーメントは下を向きます(gs ≈ 2、μB はボーア磁子)。スライダーで準備状態の角度を変えると、|↑⟩ と |↓⟩ 二本の棒の確率が互いに逆向きに伸びます。この二値の |↑⟩/|↓⟩ こそ、前の強で抽象的に学んだキュービットの物理的な正体です。
装置を二つつなぐと測定の本質が現れます。まず z方向のフィルターで上の状態 |↑⟩ だけを通します。その綺麗な上の状態を、角度 θ だけ傾いた二つ目の分析器に入れます。すると上が出る確率は cos²(θ/2)、下が出る確率は sin²(θ/2) です。スライダーで θ を 0 から大きくすると上の割合が減り、下の割合が増えます。θ = 90° では両方ちょうど五分五分です。確かに上の状態を選んだのに、新しい軸で測り直した瞬間その情報が消えたのです。新しい軸を測ると古い軸の答えが消えます。