標本分布 わかりやすく
標本を一つ引いて平均を取ると、数が一つ出ます。ところが別の標本を引くと別の数が出ます。つまり標本から計算した統計量、ここでは標本平均そのものが、引くたびに揺れる確率変数です。この揺れにも規則があって、標本平均が取りうる値の分布を標本分布と呼び、その幅を標準誤差と呼びます。値を足すと釣鐘になることを normal-cltで見たなら、ここではその平均が標本ごとにどれほど広がるか、標本を大きくするとその広がりがどう縮むかを見ます。核心の公式は一つで、標準誤差は標準偏差を平方根で割ったものです。この一行が、世論調査がなぜ少ない数だけ聞いてもよいのか、実験をなぜ何度も繰り返すのか、推定値の横に付く ± がどこから来るのかを全部説明します。揺れの幅がその答えです。
ボタンを押すと標本が新しく引かれます。同じ母集団から同じ大きさの標本を引いても、その平均 x̄ は毎回少し違います。一回引いて一点、また引いてまた一点、こうして標本平均を積みヒストグラムに集めると、初めはでこぼこで、やがて真ん中が盛り上がった山の形に落ち着きます。この積み上がる分布がまさに標本分布、標本平均という統計量が描く自分だけの分布です。測る対象である母平均は固定なのに、それを推定する道具である標本平均が揺れる点が大事です。その揺れの形と幅を知ることが、この講のすべてです。道具が揺れます。
ここで二つの分布を並べて見ます。広く広がった側は、生の値一つ一つが散らばった姿で、その幅が母集団の標準偏差です。その上に狭く立ち上がった側は、大きさ n の標本の平均が散らばった姿で、ずっと密に真ん中へ集まります。平均を取る過程で大きい値と小さい値が打ち消し合うので、平均は個別の値よりずっと揺れません。この狭い幅がまさに標準誤差で、標準偏差と名前は似ていてもまったく違う量です。標準偏差は個体がどれほど違うかを、標準誤差はその個体たちの平均がどれほど頼りないかを言います。大きさを増やすと広い側はそのままで、狭い側だけがますます狭くなります。平均が揺れを減らします。
ここでその幅を式で固定します。標準誤差は標準偏差を平方根で割ったものです。分母に個数ではなくその平方根があることが核心です。大きさを増やすと曲線に沿って標準誤差は下がりますが、初めは急に落ち、やがて緩やかになります。大きさを 4 倍に増やしてやっと標準誤差が半分になり、誤差を 10 分の 1 にするには標本を 100 倍集めなければなりません。この平方根の壁のため、精度を上げるにはますます大きな費用がかかります。だからある地点からは、標本をさらに増やすより測定そのものを改善するほうがよいのです。データは多いほどよいですが、その利得は √n の速さでしか育たないことを知るのが実践の感覚です。利得はゆっくり育ちます。
ここまでは母集団が釣鐘だったので、少し甘く見たわけです。ではあからさまに片側へ偏った分布ならどうでしょうか。ここの指数分布は 0 の近くに集まり、右へ長い尾を引く、まったく対称でない分布です。大きさが 1 のとき、標本平均の分布はこの偏った原本のままです。ところが大きさを増やすと驚くことが起きます。源泉がこんなに曲がっていても、標本平均の分布はだんだん左右対称の釣鐘へ近づき、正規曲線に合います。これが中心極限定理の標本分布の顔です。normal-cltで値を足すと釣鐘になると見たなら、ここではその和を割った平均の分布が、原本の形に関係なく N(μ, σ/√n) へ収束するのを見ます。だから母集団の形を知らなくても、標本平均だけは正規分布として扱えます。形が違っても平均は釣鐘です。
最後に、標本の大きさが標本分布に及ぼす効果を直接重ねて見ます。広い側は小さい標本 n=4 の平均の分布でだだっ広く、狭い側は大きくしていく大きな標本の平均の分布です。大きさを上げるほど狭い側はますます狭く高く立ち上がり、真の平均のまわりへ締まります。二つの分布の中心は同じように重なりますが、幅だけが平方根の速さで縮みます。実践で意味することは明らかです。標本が大きければ推定値は真値により近く、より頻繁に落ちる、つまり推定がより精密だということです。世論調査と臨床試験と品質検査が標本の大きさを増やす理由が、まさにこの図にあります。ただし 3 講で見たようにその利得は平方根でしか育たないので、どれほど狭めれば十分かはいつも費用と秤にかけます。費用と精密を一緒に見ます。