一点の応力は見る角度で変わる
これまで応力をいつも面に垂直な σ と面に沿う τ に分けてきました。ところがその面をどの向きに取るかは、実は私たち次第です。同じ点でも面を斜めに回してみると、そこに掛かる垂直応力と剪断応力がまるで変わります。奇妙に聞こえますが当然です。応力は面があって初めて定義されるのに、面の向きを変えたのですから。だから一点の応力状態は数一つではなく、角度によって変わるひと組です。これを扱うのが応力変換です。角度を回すと σ と τ がサイン・コサインで揺れ、その中に剪断が 0 になる特別な角が現れます。そこで垂直応力が最大になり、それが材料が実際に裂ける方向です。この講はその揺れを直に見せます。
一点の応力状態を描く標準的な方法が応力要素です。その点を囲むごく小さな正方形を思い浮かべ、四つの面に掛かる応力を矢印で表します。左右の面には水平の垂直応力 σx、上下の面には垂直の垂直応力 σy、そして面に沿って滑らせる剪断応力 τxy。τ をドラッグしてみてください。剪断の矢印が四面に一斉に現れます。一つの面だけに剪断が掛かることはありません。平衡が崩れるからです。常に組になって四面にそろって来ます。これが共役剪断です。この小さな要素一つが、その点の応力状態を丸ごと収めています。σx、σy、τxy の三つの数で平面応力はすべて決まります。
さて核心の一手です。同じ点を見ながら、要素だけを斜めに回します。θ をドラッグすると正方形が回転し、新しい面に掛かる垂直応力 σ′ と剪断応力 τ′ が一緒に変わります。点はそのまま、面の向きだけが変わったのに応力が変わる。最初は戸惑いますが、よく考えれば当然です。同じ力の束も、どの向きの面で切るかで垂直成分と平行成分の比が変わりますから。斜めの面ほど力が面をかすめて通るので剪断が大きくなる、という具合です。だから σ′ と τ′ は角度 θ の関数です。一点に応力値が一つではなく、見る角度ごとに違うひと組がある。すると自然に問いたくなります。どの角度が最も危ないのか。
その揺れを式に書くと応力変換式です。σ′ = (σx+σy)2 + (σx−σy)2·cos2θ + τxy·sin2θ、そして τ′ = −(σx−σy)2·sin2θ + τxy·cos2θ。長く見えますが核心は単純。どちらも 2θ のサインとコサイン、滑らかな波です。θ をドラッグしてみてください。σ′ 曲線と τ′ 曲線の上の二点が一緒に動きます。注目すべきは二つ。第一に、θ ではなく 2θ が入るので周期が 180 度。要素を 180 度回せば元に戻るので当然です。第二に、σ′ の平均値 (σx+σy)2 は θ がどうであれ変わりません。この和は回転しても保存される量です。この二つの曲線さえ手にすれば、危ない角を探すのは曲線の峰と零点を読むことになります。
要素を回していくと、剪断応力 τ′ がちょうど 0 になる角が現れます。その面を主応力面といい、そこに掛かる垂直応力を主応力といいます。θ をドラッグして τ′ を 0 に合わせてください。その瞬間、要素の剪断矢印が消え、残るのは純粋な押し引きだけ。そしてまさにこの角で垂直応力が最大になります。最大の主応力 σ1 と最小の σ2 がこの面に現れます。なぜ重要か。材料はふつうこの最大主応力に垂直に裂けます。チョークをねじって折ると断面が斜めの螺旋に割れるのは、まさに主応力面に沿っているのです。だから破損を予測するには、σ1 とその向き、つまり主応力と主角を見つけるのが最初の仕事です。
今度は逆に、剪断応力が最も大きくなる角を探します。θ をドラッグして τ′ が頂点になる所を手探りすると、それは主応力面からちょうど 45 度回った位置です。いつもそう。最大剪断面は主応力面から 45 度。そしてその最大剪断の大きさは二つの主応力の差の半分、τmax = (σ1−σ2)2 です。なぜ重要か。鋼のような延性材料は垂直応力より剪断に先に降伏します。だから引張試験片を引くと、きれいな横断面ではなく 45 度傾いた面に沿って滑りながら伸びます。その斜めの縞こそ最大剪断面に沿った痕です。まとめると、主応力面では剪断が 0 で垂直応力が極値、そこから 45 度回ると剪断が極値。この二つの特別な角が応力変換の結論です。