浮力は押しのけた流体の重さに等しい
水に物体をそっと押し込んでみてください。入った分だけ水が横に押しのけられて水面が上がり、同時に手には上へ押し上げる力が感じられます。深く押すほど強く押し返してきます。この上向きの押しが浮力です。驚くべきは、その大きさが物体が押しのけた水の重さにちょうど等しいということ。2200年前、アルキメデスが風呂で気づいたまさにその事実です。浮力を決めるのは物体が重いか軽いかではなく、どれだけの水を押しのけたかです。だから鉄の塊は沈むのに、同じ鉄で作った船は水に浮くのです。
まず、物体をどれだけ水に沈めるかをドラッグしてください。物体が水中に沈んだ体積の分だけ、もとそこにあった水が押しのけられます。これが押しのけた体積です。沈んだ体積が大きいほど押しのけられた水も多くなり、上へ受ける浮力もそれだけ大きくなります。半分沈めば浮力も半分、すべて沈めば最大です。浮力を生むのは物体そのものではなく、物体が割り込んで押しのけたその水です。物体が占めた場所をもとは満たしていた水が、その場所を取り戻そうとする力と見てもよいでしょう。
なぜよりによって上へ押し上げるのでしょう。前の講で見た静水圧を思い出してください。圧力は深いほど大きくなります。だから沈んだ物体の下面は上面より深く、上面を押し下げる圧力より強い圧力で上へ押し上げられます。上から押す圧力より下から支える圧力が大きいので、その差の分だけ正味で上向きの力が残ります。深さをドラッグして物体をもっと深く下ろしてみてください。上下の圧力はどちらも大きくなりますが、その差は物体の高さが決めるのでそのまま。だから浮力は深さによらず一定で、その大きさがまさに押しのけた水の重さなのです。
では物体の密度をドラッグして変えてみてください。水より軽い物体は浮き上がり、ちょうど自分の重さの分だけ水を押しのける深さで止まります。沈む割合はまさに物体の密度わる水の密度です。密度が水の0.6倍なら60%だけ沈んで浮きます。氷山が大部分水面下に沈んでいるのはこのため。氷の密度が水の約0.9倍なので、90%が沈むのです。逆に水より重い物体は、すべて沈んでも浮力が重さに勝てず沈みます。浮くか沈むかは重さではなく、水との密度の比べ合いで決まります。
これを一つの式にまとめると、浮力 F = ρ g V です。ここで ρ は物体ではなく取り囲む流体の密度、g は重力加速度、V は沈んだ体積、すなわち押しのけた体積です。三つを掛ければ、押しのけた流体の重さがそのまま出てきます。流体の密度 ρ をドラッグすると、同じ体積でも重い流体ほど浮力が大きくなります。肝心なのは ρ が流体の密度だという点。海水では真水より浮力が少し大きく、水銀の中なら鉄でも浮かびます。物体が何でできているかは浮力の式に現れません。流体と押しのけた体積さえあればよいのです。
最後に、鉄で作った船を見てみましょう。ボタンで、同じ量の鉄を、詰まった塊と、中が空の船の形とに切り替えてみてください。塊のときは押しのける水が少なく、浮力が重さに勝てず沈みます。ところが広げて中を空にした船の形は、同じ重さでずっと多くの水を押しのけます。押しのけた水の重さが船全体の重さと等しくなった瞬間、船は浮きます。肝心なのは平均密度です。中を空にすると、船内の空間まで含めた平均密度が水より低くなるからです。巨大な貨物船が浮く秘密は、まさにこの空っぽの空間と、それが押しのける莫大な水なのです。