連立方程式 逆行列 わかりやすく
連立方程式は、学校で加減法だの代入法だのと機械的に解いてきました。二つの式を並べて x と y を一つずつ消していくやり方でしたが、それが何をしていることなのかは実感がなかったでしょう。実は連立方程式とは、ある入力に変換 A をかけたら b が出てきたとき、もとの入力は何だったのかを問う質問です。変換を逆向きに巻き戻すことなのです。「行列は変換だ」では行列が変換だと述べ、「行列式は面積の倍率だ」ではその変換が空間をつぶすこともあると述べましたが、二つの話がここで一つに出会います。連立方程式がいつ解けていつ解けないのかは、すべてその絵の中にあったのです。
まず Ax = b という式を絵で見ます。A は変換、x は私たちが知らない入力、b は結果です。平面に変換 A をかけるとすべての点がどこかへ移りますが、その中でちょうど b の位置に落ちる点が、探している x です。図の金色の輪が b、青い矢印が候補の入力、緑の矢印がその候補に A をかけた結果です。青い点をドラッグして緑の矢印の先を金色の輪に合わせると、矢印が金色に変わり、下に答えが表示されます。連立方程式を解くとは、結局 b に着く入力を逆にたどって見つけることです。
とはいえ、毎回候補を打っていくわけにはいかないので、もっと賢い方法があります。A が空間を曲げたのなら、その曲がりを正確に元に戻す変換もあるはずで、それが逆行列 A⁻¹ です。図の矢印ボタンで段階を進めると、単位正方形は A を受けてゆがみ、次に A⁻¹ を受けて元の形に戻ります。下の枠には今かかっている行列が表示され、最後の段階の行列は何も変えない単位行列です。だから答えは x = A⁻¹b です。b を逆向きの変換に一度通せば、それがそのまま出発点になります。連立方程式を解く公式は、実は巻き戻しボタンだったのです。
では、答えはいつもちょうど一つでしょうか。変換が空間をつぶしていなければ、つまり前の講で見た行列式が 0 でなければ、そのとおりです。変換が点を均等に広げているなら、結果 b 一つに落ちてくる入力はちょうど一つだけだからです。図では金色の矢印が結果、青い矢印がその結果を生む入力で、金色の点をあちこちへドラッグすると、そのたびに青い矢印が一本だけついてきます。下の行には入力の座標といっしょに行列式の値も書かれています。元に戻せる変換では答えはいつも一つ、これが「行列式が 0 でなければきれいに解ける」という言葉の本当の意味です。
次は行列式が 0 の場合です。前の講で見たように平面は一本の直線につぶれ、ここで奇妙なことが起こります。結果 b がその直線上になければ、そこに着く入力はまったくないので、答えはありません。逆に b が直線上にあれば、無数の入力がその一点に押しつぶされているので、答えは無数にあります。図の太い灰色の線がつぶれた平面で、矢印の先をドラッグしてその線に乗せると下の表示が「解が無限」に、線の外へ外すと「解なし」に変わります。答えがないか多すぎるか、そのどちらかしかありません。行列式の話で逆行列がないと言っていたことが、連立方程式では「きれいな答えが出ない」という形でそのまま現れるのです。
最後に、学校で習った絵とつなげます。連立方程式の二つの式をグラフに描くと二本の直線になり、答えは二本の直線が交わる点です。二本の直線が交わるという絵と、さっき見た変換を逆向きに解くという絵は同じものです。スライダーで行列式を小さくしていくと、緑とオレンジの直線はだんだん平行に近づき、交わる金色の点が答え x です。行列式が 0 になった瞬間、二本の直線は平行になって交わりません。このとき下のボタンで右辺をそろえると、二本の直線はぴったり重なり、どこでも交わります。前者は答えがない場合、後者は答えが無限にある場合です。つぶれた変換とは平行な直線のことだったわけで、二つの絵は実は一体なのです。