収束半径 とは
1 + x + x² + x³ のように x のべきを限りなく足していくべき級数は、x が中心に近いときは一つの値に収まるが、遠ざかると和がどこまでも大きくなったり揺れたりする。級数が収まる x の範囲はいつも中心 c を真ん中に置いた区間 |x − c| < R の形をしていて、この R を収束半径という。半径の内側では級数を多項式のように足したり微分したり積分したりできるが、半径の外側では級数は何の値も与えず、半径の端点である境界では級数ごとに個別に調べなければならない。この講では、部分和が極限に張り付く区間、半径を求める比判定法、数直線の上の収束区間、境界で分かれる三つの級数、そして等比級数の棒の図を順に扱う。
べき級数がどこで収束するかは、いちばん単純な等比級数でまず確かめられる。下の図の金色の曲線は部分和 SN(x) = 1 + x + … + xN、灰色の曲線はその極限 1/(1 − x) で、二本のスライダーが項数 N と観測点 x を決める。最初の N = 6、x = 0.60 では S = 2.43 · 1/(1-x) = 2.50 と読め、N を 18 に上げると S も 2.50 になって極限と一致する。x を 0.90 に動かすと N = 6 で 5.22、N = 18 でも 8.65 と極限 10.00 にはるかに届かないが、これは境界 1 に近いほど項 xⁿ がゆっくりとしか小さくならず、多くの項が必要になるからである。x を 1.20 に動かすと図の下が「S = 12.92 · 発散」に変わり、N を 7 に上げると 16.50 とさらに大きくなり、x = −1.20 では N = 6 の 2.08 と N = 7 の −1.50 のあいだを行き来しながらしだいに大きく揺れる。つまりこの級数は |x| < 1 でだけ 1/(1 − x) に収まり収束半径は 1 で、この半径を決めているのは 1/(1 − x) が x = 1 で無限大に発散するという事実である。
収束半径は比判定法で求め、連続する二つの項の大きさの比 L = lim |aₙ₊₁ / aₙ| が 1 より小さければ級数は収束し、1 より大きければ発散する。Σ xⁿ ではこの比はいつも |x| で、下の図の九本の棒は n = 0 から 8 までの項の大きさ |x|ⁿ を、いちばん大きな棒に合わせて描いたものである。最初の x = 0.70 では「L = 0.70 · 収束 (L<1)」が緑で書かれ、棒は 1 から 0.7⁸ ≈ 0.06 まで小さくなる。x を 1.50 に上げると「L = 1.50 · 発散 (L>1)」の赤に変わって棒は右へ行くほど大きくなり、x = ±1.00 では「L = 1.00 · 境界 (L=1)」が金色で出て、棒の高さはすべて同じになる。x が負でも判定は |x| で行うので −0.70 は 0.70 と同じ判定を受け、L = 1 の境界では比判定法は何も教えてくれないので別の方法が必要になる。
収束する範囲は、中心から一定の距離 R の内側として決まる。下の図は級数 Σ (x/a)ⁿ の収束区間を数直線の上に描くもので、この級数の比は |x|/a なので収束半径は R = a である。中心 0 のまわりの金色の帯が収束区間 (−R, R) で、最初の R = 2.00、x = 1.20 では「R = 2.00 · x = 1.20 · |x| < R · 収束」が緑で書かれる。半径のスライダーで R を 0.5 から 3.0 まで変えると帯は狭まったり広がったりし、x を帯の外の −2.5 に動かすと赤の「|x| > R · 発散」に変わる。x が帯の端 x = ±2.0 に来ると「|x| = R · 境界(この級数は発散)」が金色で出るが、これはそのとき項がすべて 1 になるか 1 と −1 を行き来して、0 に小さくならないからである。収束するかどうかは中心からの距離 |x| と半径 R の比較で決まるので、収束区間はいつも中心に対して対称で、複素数 z に広げるとこの区間は半径 R の円板になる。
半径が同じでも境界での結果は級数ごとに違い、下の図の三つの級数 Σxⁿ、Σxⁿ/n、Σxⁿ/n² はどれも収束半径が 1 である。ボタンで級数を選ぶと、x = −1 と x = +1 での部分和が 200 項まで五項ごとに棒で描かれ、図の下にそれぞれの端点の判定が書かれる。最初に選ばれている Σxⁿ/n は x = −1 で交代級数 −1 + 1/2 − 1/3 + … になって「x = -1: 収束 (→ -0.69)」が出て、x = +1 では調和級数 1 + 1/2 + 1/3 + … になって発散する。Σxⁿ は x = −1 で部分和が 1、0、1、0 を行き来し、x = +1 ではどこまでも大きくなって両端とも発散し、Σxⁿ/n² は項が 1/n² のように速く小さくなって両端とも収束し、−0.82 と 1.64 が書かれる。比判定法は三つの級数すべてに L = |x| を与えて境界では判定を下せないので、端点では交代級数の判定法や p 級数の判定法のような別の方法で個別に調べなければならない。
項が小さくなる速さが、収束を分ける。下の図は等比級数 1 + x + x² + … = 1/(1 − x) を棒でつないで描くもので、一本の棒が項 xⁿ で、前の棒が終わったところから次の棒が始まり、最後の棒の端が部分和になる。最初の x = 0.60 で六項をつなぐと、棒は 1、0.6、0.36 のようにしだいに短くなって緑の破線 1/(1-x) = 2.50 に近づき、図の下には S = 2.38 · 1/(1-x) = 2.50 と書かれる。x を −0.60 に変えると負の項が青い棒で引き返し、端は 1、0.40、0.76 のように左右に揺れながら 0.63 へ集まり、六項では S = 0.60 である。x を 0.90 に上げると十二項つないでも S = 7.18 で本当の和 10.00 に届かないが、これは比が 1 に近いほど棒がゆっくりとしか縮まないからである。項が十分速く小さくならなければ無限の和は有限の値にならない、というこの等比級数があらゆるべき級数のものさしで、比判定法も結局は級数を等比級数と比べる方法である。