数値積分は面積を短冊で測る
定積分は曲線の下の面積です。しかし手で積分できる閉じた形の原始関数を持たない関数は山ほどあり、実験データのように点だけで式そのものがない場合も多い。では面積をどう求めるのか。発想は小学校の面積くらい単純です。区間 [a,b] を細い縦の短冊に切り、各短冊の面積を易しい図形で見積もって足し合わせるのです。長方形で埋めれば粗く、上辺を斜めに切って台形で埋めればより良く、二つずつ束ねて放物線で合わせればずっと正確。短冊を細かくするほど(n を増やすほど)真値に近づきますが、その近づく速さは規則ごとに違います。この講では真値が正確に分かっている積分一つ(f=1+sin x、答え π+2)を据え、三つの規則が同じ労力でどれだけ違う精度を出すかを目で比べます。
灰の曲線が f(x)=1+sin x で、求めたい面積は 0 と π の間でその下です。真値はちょうど π+2≈5.1416 なので、誤差を本当に測れます。金の棒が区間を n 個に切った長方形です。上のトグルで、各棒の高さを左端・右端・中点のどれで取るか選んでください。n スライダーを上げると棒が細くなり、推定値が真値に近づきます。左端・右端は片側に偏りますが、中点は上下の誤差が打ち消し合うので普通いちばん正確です。
同じ積分、同じ真値 π+2 です。今度は棒の上辺を平らにする代わりに、両端を直線で結んで台形で埋めます。長方形は曲線と棒の間に空の三角形を残しますが、台形はその斜めの部分を直線でなぞり、隙間を大きく縮めます。n スライダーを動かし、同じ n でブロック1より誤差が小さいことを確かめてください。台形の誤差は h² に比例するので、n を二倍にすると誤差はおよそ1/4に落ちます。長方形が1/2になるのと比べ、一段速い収束です。
台形は曲線を直線で近似しました。曲線を曲線で近似したらどうでしょう。シンプソン則は区間を二つずつ束ね、その三点をちょうど通る放物線で曲線を合わせます。直線が捉えられない反りまで捉えるのです。破線が真の曲線、その上にほぼ重なる金が放物線近似です。n を偶数で動かすと、誤差の数字が台形より桁ごと小さくなるのが見えます。シンプソンの誤差は h⁴ に比例するので、n を二倍にすると誤差はなんと1/16に落ちます。同じ短冊数で精度が爆発的に良くなるのです。
いよいよ三つの規則の正体を一枚の図で暴きます。縦軸は log10(誤差)、横軸は短冊数 n です。規則を選んで n を掃くと、誤差が下がる曲線が描かれます。鍵は下がる傾き。それが精度次数 p で、読み取りに推定値が出ます。長方形は緩やかに(p≈1)、台形はより急に(p≈2)、シンプソンは崖のように(p≈4)下がります。曲線が急なほど、同じ n の増加が誤差をはるかに削ります。ただしシンプソンは機械精度の床に達すると、それ以上は下がりません。
最後に三つを並べ、同じ条件で正面から比べます。三本の棒は同じ n、まったく同じ計算量を使った中点・台形・シンプソンの誤差です。縦は対数目盛なので、棒の長さは誤差の桁数です。n を動かしてみてください。三本とも短くなりますが、シンプソンの棒が他の二本を圧倒的に押しつぶします。メッセージは明快。同じ労力をかけても、どの公式を選ぶかで精度が桁単位に分かれます。数値解析の核心は、やみくもに n を増やすことではなく、より賢い規則を選ぶことです。