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工業数学 わかりやすく

中心極限定理 わかりやすく

68-95-99.7 規則、独立の和・標本平均は正規に収束(CLT)、z 標準化、信頼区間

世の中には数えきれないほどの分布がありますが、なぜか一つの形がどこにでも現れます。釣鐘形、つまり正規分布です。人の身長、試験の点数、測定誤差、工場の部品の寸法、さらには統計の標本平均まで、出どころはまったく違うのに、みな申し合わせたように真ん中が盛り上がった左右対称の鐘を描きます。なぜよりによってこの形がこれほどありふれているのでしょうか。答えは優雅で強力です。互いに独立な小さな偶然の要因をたくさん足すと、それぞれの要因がもとはどんな形であっても、その和は釣鐘形に収束します。これが中心極限定理、統計学でもっとも深く美しい結果の一つです。身長が正規分布に従うのは、数えきれない遺伝子と環境の要因が足し合わされた結果であり、測定誤差が正規分布になるのは、無数の小さなゆらぎが合わさった結果です。前の講で分布を中心と広がりの二つの数に要約しましたが、正規分布はまさにその二つ、平均と標準偏差だけで完全に決まります。確率・統計の流れの最後となるこの講では、釣鐘形がなぜどこにでも現れるのか、そしてそのものさし一つで世界をどう測るのかを見ます。

まず、釣鐘形そのものと仲よくなります。正規分布は平均でいちばん高く、左右対称になめらかに下がっていきます。驚くのは、この曲線がたった二つの数、平均 μ と標準偏差 σ だけで完全に決まるという点です。μ は山の位置である中心、σ は鐘の幅です。そして正規分布には、覚えておく価値のあるすてきな規則が一つあります。68-95-99.7 の規則です。ボタンで幅を選ぶと、平均から ±1σ の中に全体の約 68% が、±2σ の中に約 95% が、±3σ の中に約 99.7% が入ることが、塗られた面積でわかります。言いかえると、正規分布に従う値はほとんどいつも (99.7%) 平均から 3σ 以内にあり、3σ を外れることは千回に三回ほどとめったにありません。σ が自然なものさし (ruler) なのです。平均から何 σ 離れているかが、そのままどれだけまれなことかを表します。この規則一つで、ある測定値がふつうなのか異常なのかをすぐに判断できます。

次に、釣鐘形がどうやってひとりでに生まれるのかを見ます。さいころを一つ投げると 1 から 6 まで確率が同じなので、分布は平らな長方形で、鐘とはほど遠い形です。ところがさいころをいくつも投げて和を見ると、魔法が起こります。ボタンでさいころの数を増やします。二つ足しただけで平らだった分布が 7 を頂点とする三角形になり、三つ、四つと増やすと角が丸くなって、だんだん釣鐘形に近づきます。青い棒が和の確率で、金色の曲線が同じ平均と広がりを持つ正規分布です。なぜそうなるのでしょうか。和がとても小さくなるには、すべてのさいころが同時に小さい目を出さなければならず、それはまれですが、和が真ん中あたりになる道は数えきれないほどあるからです。だから中くらいの値が圧倒的によく出て、山ができます。材料であるさいころ一つはまったく釣鐘形ではないのに、いくつか足すだけで鐘が現れるのです。これは、中心極限定理がはたらく姿を、いちばん単純に示す例です。

さいころはもともと対称なので、手加減した例だと言えるかもしれません。では、あからさまに片側へ偏った分布ならどうでしょうか。ここに指数分布があります。0 の近くがいちばん多く、右へ長いすそを引く、まったく対称でない分布です。この偏った分布から N 個を取り出して平均し、その平均値をたくさん集めてヒストグラムを描きます。下のトラックで標本サイズ N を大きくします。N=1 ならもとの偏った形のままですが、N を大きくすると、驚いたことに標本平均の分布はだんだん対称な釣鐘形になり、同時にだんだん狭くなります。もとがどれほどゆがんでいても、十分たくさん取り出して平均すれば、その平均は正規分布に収束します。これが中心極限定理の核心です。そしてその幅は、N が大きくなるほど 1√N で縮み、下にその値が表示されます。標本を 4 倍にすれば、平均のばらつきは半分になるのです。だから標本が多いほど平均の推定は精密になり、世論調査が数千人に聞くだけでもかなり正確なのは、まさにこのためです。

正規分布がどこにでも現れるなら、すべての正規分布を一つの標準のものさしで統一すると便利です。それが z による標準化です。ある正規分布 N(μ, σ) の値 X を、平均からどれだけ離れているかを σ 単位で表し直します。式では z = (X − μ)σ です。まず μ を引いて中心を 0 に移し、σ で割って幅を 1 にそろえるのです。前の講で見た aX+b 変換の一つの場合です (a=1σ, b=−μσ)。下の二つのトラックで μ と σ をどれだけ変えても、曲線の下の z の目盛りはいつも 0, ±1, ±2 に固定されています。金色の上の行の x の値は分布ごとに違いますが、青い下の行の z の値で測れば、すべての正規分布が同じ標準正規分布 N(0, 1) になります。これが強力なのは、標準正規分布一つを表や関数として持っていれば、世界中のあらゆる正規分布の確率を z に直して、その表一つで読めるからです。身長が 175cm になる確率でも株価の収益率でも、z に直せば同じものさしで測れます。

最後に、これがすべて工学でどう使われるのかを見ます。同じ量を何度測っても、毎回値が少しずつ違います。そのばらつきは無数の小さな雑音が足されたものなので、中心極限定理によって正規分布に従います。図の測定点も、平均のまわりに釣鐘形に広がっています。ここに 68-95-99.7 の規則を当てはめます。ボタンで帯の幅を変えると、帯の中の点は金色、外の点は赤に分かれ、測定値の約 95% が平均 ±2σ の中に入ることがわかります。「測り直す」を押すと、新しい測定点で同じ割合をもう一度確かめられます。これを裏返すと、真の値は測定の平均から ±2σ の中にあると約 95% の確信を持って言えます。これが信頼区間です。測定結果を 5.0 ± 0.2 のように書くときの、あの ± がまさにこれです。工学では、どんな数も ± なしにひとりでは歩きません。部品の寸法の公差、実験値の誤差の範囲、世論調査の標本誤差、センサーの精度は、すべて推定値 ± 何 σ で表されます。だから統計とは「平均はいくつだ」と言う言葉ではなく、「平均はこの範囲にあり、それをこれだけ確信している」と言う言葉なのです。正規分布と中心極限定理が、その確信に数を与えます。この講で確率・統計の流れを終えます。線形代数の変換と固有値、複素数の回転、微分方程式の流れと安定性、そして確率の分布と推定まで、工学を学ぶ人の道具箱に入った基本の道具が、手の中にそろいました。

実際に使う正規分布という釣鐘形は、平均 μ と標準偏差 σ の二つの数で完全に決まり、68-95-99.7 の規則により ±1σ・±2σ・±3σ の中に約 68%・95%・99.7% が入ります。どこにでも現れるのは中心極限定理のためです。独立な小さな要因をたくさん足すか標本平均をとれば、もとの分布が何であれ正規分布に収束し、その幅は 1√N で縮みます。どんな正規分布も z=(X−μ)σ で標準化すれば同じ標準正規分布 N(0,1) になり、表一つですべて読めます。測定のばらつきも正規分布なので、測定の平均 ±2σ が約 95% の信頼区間になります。工学では、これが測定・誤差・公差・品質・信頼性の共通語です。あらゆる数を推定値 ± 何 σ で語り、6 シグマの品質、信号対雑音比、世論調査の誤差、部品の歩留まりが、すべてこの釣鐘形の上で計算されます。正規分布と中心極限定理が確信に数を与える道具だ、というのが核心です。ここまで歩いてきた道 (線形代数→複素数→微分方程式→確率統計) が、ここでひとまず結ばれます。変換と固有値、回転と eiθ、流れと安定性、分布と推定が、一本の流れにつながります。
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