行列は変換だ
行列って、初めて見ると、ただ数字を四角く並べた表みたいですよね。だからみんな暗記しようとする。でも、それがずっと混乱する原因なんです。行列は表ではなく、動きです。正確に言うと、平面上のすべての点を一度に動かす関数です。空間を伸ばし、回し、斜めに押す。この一枚の絵が腰を据えると、なぜ行列の掛け算がああいう定義なのかも、固有値が何を見ているのかも、急にやさしくなります。ゆっくりついてきてください。
まず感覚をつかみましょう。画面に格子が敷いてありますね。スライダーで行列の数字を変えてみてください。格子全体が一緒に曲がり、伸びます。一つの点ではなく、平面全体が丸ごと動くんです。これが変換の正体です。行列一つが「この空間をこう変えろ」という命令なんですね。大事なのは、格子がでたらめに崩れるわけではないということ。直線は変換後も直線、平行な線は変換後も平行、間隔も一定に保たれます。こうして「きちんとした形を保ったまま」空間を変えるのが、行列による変換です。
では、この複雑に見える変換を、たった数個の数字でどう書き切るのでしょう? 秘密は意外なほど単純です。たった二つの点を追えばいいんです。右に一歩進む矢印 î、上に一歩進む矢印 ĵ。この二つが変換後にどこへ行くか、それさえ分かれば終わりです。そしてその「着いた場所」こそが、行列の二つの列なんです。一列目は î が行った場所、二列目は ĵ が行った場所。行列を見ながらトグルを押してみてください。何の意味もなさそうだった四つの数字が、実は「î と ĵ をここへ送れ」という座標だったんです。
「î と ĵ だけ分かって何になるの? 他の点は?」 ここが核心です。他の点は別に知る必要がありません。平面上のどんなベクトルも、結局は î を何個か、ĵ を何個か合わせたものだからです。たとえば (3, 2) という点は、î を3個、ĵ を2個足したもの。ところが変換は、この「合わせた割合」をそのまま保ちます。だから変換後の (3, 2) は、î が行った場所を3個、ĵ が行った場所を2個足した場所になるんです。ベクトルをドラッグして確かめてみてください。これが線形性です。î と ĵ の運命さえ決めれば、残りの無限に多い点は勝手についてくる。この性質のおかげで、行列の四つの数字で空間全体を操れるんです。
変換を一度したあと、その上にもう一つ変換をしたくなったら? たとえば、まず回転させて、それから引き伸ばす。このとき、二つの行列を掛ければいいんです。つまり行列の掛け算は、実は「変換を続けて行う」という意味なんです。学校で、行と列を妙なやり方で掛けろと習いましたよね? あの変な規則こそが、「変換を順番に適用した結果」を計算しているんです。だから順番が大事。回転してから伸ばすのと、伸ばしてから回転するのとでは、結果が違いますからね。二つの変換の順番を入れ替えてみてください。絵が変わりますね。AB と BA が違うのは、覚える規則ではなく、当たり前のことだったんです。
では、いくつか代表的な変換を見てみましょう。回転、拡大、せん断(斜めに押すこと)、反射。ボタンを押すと、それぞれが行列一つに対応しているのが見えます。私たちが知っている「空間を変える動き」が、結局みんな行列だということです。最後に「ぺちゃんこ」ボタンを押してみてください。空間が一本の線につぶれます。これはちょっと特別な場合で、このとき行列式という値が0になります。変換が空間をつぶしたという合図です。この「平たくなる」が何を意味するのかは、すぐ次の講(行列式)で掘り下げます。