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単語帳
工業数学

期待値は重心、分散は広がりだ

E[X] は確率の重さの釣り合い点、分散は距離²の平均、標準偏差は同単位の幅、aX+b 変換

前の講で、分布は確率の広がりの全体の形だと言いました。でも、分布を丸ごと持ち歩くのは重い。実務では分布をたった二つの数で要約します。どのあたりに集まっているか、そしてどれだけ広く散らばっているか。この二つが期待値と分散です。期待値 E[X] は分布の中心、正確に言えば重心です。分布を棒のおもりとして見れば、その棒がちょうど釣り合う支点の位置が期待値です。「平均的にこの値の近くが出る」を一点に打ったものです。分散は、その中心から値が平均的にどれだけ遠く散らばっているか、広がりの大きさです。同じ中心でも、こぢんまり集まっているか、広く散らばっているかは、まったく違う状況だからです。この講では、期待値を天秤の釣り合いの点として、分散を距離の二乗の平均として自分で触れ、分布を要約する二つの数の意味を体で覚えます。

まず、期待値を天秤で感じてみましょう。棒の上に、質量の違うおもりをいくつか置いてあります。大きいものは重く、小さいものは軽い。この棒がちょうど釣り合う支点、その点が重心です。おもりを動かしてみてください。支点がすぐに追いかけて、また釣り合いを取ります。重いおもりのほうへ支点が寄るのが見えますね。軽いおもりをどんなに遠くへやっても支点はあまり動きませんが、重いおもりを少し動かすだけで大きく追ってきます。これがまさに期待値です。確率では、おもりの「質量」がその値の出る確率、おもりの「位置」がその値そのものです。確率の高い値ほど、平均を強く引き寄せます。だから期待値は「確率という重さで測った中心」、分布が釣り合うただ一つの点なのです。

その釣り合いの点をどう計算するのでしょう。加重平均です。ただ値を全部足して個数で割る、ふつうの平均ではありません。各値に、その値の出る確率を掛けて足します。式では E[X] = Σ x·p(x)。サイコロを例にとると、正常なサイコロは1から6まで確率が等しく 16 なので、平均は3.5です。ところが重りが片寄った「いかさまサイコロ」なら話が変わります。棒の高さを動かして、ある目の確率を大きくしてみてください。その目がよく出るようになると、平均 E[X] がその目のほうへ引っぱられます。確率の大きい値ほど、合計に大きく寄与するからです。各値は自分の確率ぶんの「発言権」を持って、平均の位置をめぐって綱引きをするわけです。ブロック1の重心を数に移せば、まさにこの加重和です。重さ=確率、位置=値、釣り合いの点=Σ x·p(x)。

中心が分かったら、次は広がりを測ります。分散です。肝心の問いは「値が平均から平均的にどれだけ遠く離れているか」です。ただ距離を平均してはいけません。平均より大きい側は正、小さい側は負で、互いに打ち消し合って0になってしまうからです。だから距離を二乗します。二乗すれば符号が消えて、すべて正になります。点を散らしてみてください。各点から平均までの距離を一辺とする正方形が描かれます。その正方形の面積が、まさに距離の二乗です。分散は、このすべての正方形の面積の平均です。点が平均の近くにこぢんまり集まれば正方形は小さく分散は小さい、広く散らばれば正方形は大きくなり分散はぐんと大きくなります。距離を二乗したので、遠く離れた点ほどはるかに重く罰せられます。だから分散は、極端な値に敏感な、広がりの厳しい尺度です。

分散には一つ不便があります。距離を二乗したので、単位も二乗になってしまうのです。身長を cm で測ったなら、分散の単位は cm²、面積の単位です。「身長の広がりが25平方センチ」では、ぴんと来ません。そこで二乗したものを平方根で戻します。それが標準偏差です。標準偏差 = √分散で、単位が再び cm に戻り、X と同じ単位になります。「身長の広がりが5cm」ならすぐ分かりますね。正規曲線で σ を動かしてみてください。標準偏差 σ は釣鐘形の曲線の自然な「幅」、中央の山から肩が曲がる地点までの距離です。σ が小さいと曲線は狭く鋭く、大きいと広く平らになります。まとめると、分散 σ² は計算に都合のよい二乗の単位の量で、標準偏差 σ は実際に「どれだけ散らばっているか」を元の単位で感じさせてくれる、私たちが日常で使う幅です。

最後に、値に手を加えると、この二つの数がどう変わるかを見ましょう。単位変換や補正のように、X を aX+b に変えるのはとてもよくあることです。摂氏を華氏に、メートルをフィートに変えるときですね。スライダーで a と b を動かしてみてください。まず b は、みんなに同じ値を足すので、分布を形そのままに横へ丸ごと押します。だから平均も b だけ動きますが、広がり具合はまったく変わりません。みんな一緒に動いたので、互いの距離はそのままだからです。一方 a は、伸ばしたり縮めたりします。平均は a 倍になり、曲線の幅も a 倍に伸びます。だから標準偏差は |a| 倍、分散は距離を二乗した量なので a² 倍になります。式では E[aX+b]=aE[X]+b、Var(aX+b)=a²Var(X)。足し算は中心だけを動かし広がりはそのまま、掛け算は中心と広がりを一緒に伸ばすが分散は二乗で。この規則のおかげで、単位を変えても、データを標準化しても、統計量がどう追従して変わるかを頭の中ですぐ計算できます。

実際に使う分布を二つの数で要約します。期待値 E[X]=Σx·p(x) は分布の重心、確率を重さとして測った釣り合いの点です。分散 Var(X)、平均からの距離の二乗の平均は広がりの大きさで、標準偏差 σ=√分散 はその広がりを X と同じ単位の幅に戻した値です。値を aX+b に変えると E[aX+b]=aE[X]+b、Var(aX+b)=a²Var(X)、足し算は中心だけを動かし、掛け算は分散を二乗で伸ばします。工学ではこれが、すべてのデータ要約と品質判断の基本です。測定の平均と誤差範囲、工程の目標値とばらつき(シックスシグマ)、信号の強さと雑音、部品公差の累積、投資の期待収益とリスクまで、すべて「中心一つ+広がり一つ」で語ります。平均だけ見て分散を無視すると大事故になります。平均水深1mの川も真ん中は3mかもしれないからです。次の講では、この期待値・分散が中心極限定理へつながります。独立なものを多く足せば何でも正規分布に収束し、その釣鐘形の中心と幅が、まさにここで見た期待値と標準偏差です。
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