サンプリング定理
十分に標本化して信号を復元する
上の図の金色の曲線は周波数 f0 = 1 のサイン信号で、明るい点は一定の間隔で取った標本です。最初の標本化の速さは fs = 1.4 で、信号周波数の二倍(ナイキスト速度 2)より遅いため、同じ点を通るより低い周波数の赤い点線、つまり偽の波形もいっしょに描かれます。標本だけを見ても二つを区別できないので、元の信号を失ったことになります。下の図は同じ状況を周波数軸で見たもので、金色の三角形が元のスペクトル、薄い三角形が fs ごとにできた複製、金色の点線が折り返し周波数 ±fs/2 です。fs を 2 より上げると、赤い偽の波形と赤い重なりの陰影がそろって消えます。
二倍より速く取る
サンプリング定理の内容は次のとおりです。ある信号の周波数成分がすべて fmax より下にあれば(帯域制限)、標本化の速さ fs が 2·fmax より速いとき、その標本だけから元の連続信号を誤差なく復元できます。この 2·fmax をナイキスト速度と呼びます。直観は簡単です。一回揺れる間に山と谷をそれぞれ少なくとも一度はとらえる必要があるので、一周期に二点より多く打ってはじめて、標本がその振動を追えます。それより粗く打つと、速い振動は標本と標本の間をすり抜けてしまいます。
遅いと周波数が折り返す
標本化すると、信号のスペクトルが標本化の速さ fs の整数倍ごとに同じ形で複製されます。元の成分が −fmax から fmax まであるなら、±fs、±2fs を中心に同じ形の複製が並んでできます。fs が 2·fmax より大きければ複製の間にすき間があり、元の成分だけをきれいに取り出せますが、fs が 2·fmax より小さくなると、隣の複製が元の成分と重なります。このとき fs/2(折り返し周波数)より高い成分はその下へ折り返され、fs が fmax と 2·fmax の間なら、fmax の振動が |fmax − fs| という低い周波数に化けます。これがエイリアシングで、最初の画面の赤い偽の波形がまさにこの折り返された周波数であり、下の図の赤い陰影は複製が重なった場所です。
復元とアンチエイリアシングフィルタ
ナイキスト条件を守って標本化したなら、復元は各標本を sinc の形に広げてすべて足し合わせるだけで済みます。これは、遮断周波数 fs/2 の理想的な低域通過フィルタで fs/2 より上の複製を切り落とし、元の帯域だけを残すことと同じです。問題は、実際の信号が完全には帯域制限されていなかったり、雑音が混じって fs/2 より上にも成分があったりするときです。そのまま標本化すると、その高い成分が折り返されて入り込み、信号を取り返しのつかない形で汚します。そこで標本化の前に fs/2 より上をあらかじめ削り取るアンチエイリアシングフィルタを置きます。エイリアシングは一度折り返されると標本化の後では消せないので、防ぐのはいつも標本化の前です。
最初の画面に戻ると
標本化の速さ fs を遅くすると一周期に標本が二つも入らず、同じ点を通る赤い偽の波形が現れました。標本だけを見ても、元の信号と偽物を区別できませんでした。fs を信号周波数の二倍より上げると一周期の標本が二つより多くなり、周波数軸の複製が離れるにつれて赤い偽の波形も消えました。標本を通る帯域制限信号が、元の信号ただ一つに定まったのです。標本化の速さが信号の最高周波数の二倍を超えるかどうかが、信号を失うか復元できるかを分けていました。
標本化の速さが足りないと、高い周波数が低い周波数として折り返されて入り込むことを見ました。次のユニット エイリアシング では、この折り返しをさらに詳しく見ていきます。映像の車輪が逆回りに見える現象、デジタル写真の波模様、音の音程がずれる現象は、どれも同じ折り返しの別の顔です。折り返し周波数 fs/2 を鏡として周波数がどう跳ね返ってくるのか、そしてアンチエイリアシングフィルタがその鏡の前で何をするのかを扱います。