PID 制御
三つの項で応答を速く正確に
プラント G(s) = 1/((s+1)(s+2)) に PID 制御器をかけ、目標値 1(破線)に追従させる。金色の曲線が閉ループの階段応答だ。最初は比例利得 Kp だけで、出力が目標値に届かず止まる定常状態誤差が見える。積分利得 Ki を上げると残った誤差が溜まって出力を目標値まで押し上げる。ただし積分は揺れを増やしやすいので、微分利得 Kd を上げて変化を先に抑え振動を抑える。三つの利得を合わせ、速く、誤差なく、滑らかな応答を作れ。
誤差の現在・過去・未来
PID 制御器は目標値と出力の差である誤差 e(t) 一つを受け取り、三つの仕方で足して制御入力を作る。u = Kp·e + Ki·∫e dt + Kd·de/dt。比例項は今の誤差に比例して即座に反応する。誤差が大きければ強く、小さければ弱く押す、最も直観的な項だ。積分項は誤差を時間に沿って溜める。小さな誤差でも長く残れば積分値が増え続け、ついにその誤差を押し出す。微分項は誤差が変わる速さに反応する。誤差が速く減っていれば、もうすぐ行き過ぎることを先に知って制動をかける。三つはそれぞれ誤差の現在・過去・未来を見ているわけだ。
P の限界、I の正確、D の安定
比例制御だけでは定常状態誤差が残る。制御入力が u = Kp·e なので、定常状態で入力が何らかの値を保つには誤差 e が 0 でないといけないからだ。この例のプラントは直流利得が 1/2 なので、Kp だけでは出力が Kp/(2+Kp) に止まり、常に目標値に届かない。積分項がこれを解く。誤差が少しでも残れば積分が溜まり続けて入力を増やし、誤差がちょうど 0 になって初めて止まる。だから積分は定常状態誤差を 0 にする。代わりに積分は位相を遅らせる極を原点に加え、応答を揺らしやすい。微分項は逆に位相を進めて減衰を加え、オーバーシュートを減らす。比例で速さを立て、積分で誤差を消し、微分で安定を足すのが PID の分業だ。
調整と現実の落とし穴
PID は産業制御の標準道具で、温度・速度・位置・流量どこにでも使われる。三つの利得を決めることを調整と呼び、速さと行き過ぎと頑健性が噛み合って一方を上げると他方が損なわれる。古典的なジーグラー–ニコルス法は積分と微分を切り比例利得だけを上げ、システムがちょうど一定に振動し始める臨界利得とその振動周期を見つける。これがまさに F1 のラウスと F4 のナイキストで見た安定境界だ。そこから表に従って三つの利得を決める。現実には落とし穴もある。微分項は速い変化を増やすので測定雑音を増幅する。だから普通は微分に低域通過フィルタを併せて置く。また入力が限界に張り付いている間も積分が溜まり続けると、後で押しすぎる積分ワインドアップが生じるので、アンチワインドアップで防ぐ。
最初の画面に戻ると
プラント G = 1/((s+1)(s+2)) に PID 制御器をかけ、三つの利得を合わせた。比例利得だけのときは出力が目標値に届かず止まる定常状態誤差が残った。積分利得を上げると残った誤差が溜まって出力を正確に目標値まで引き上げたが、揺れが大きくなった。微分利得を上げると変化が先に抑えられ振動が鎮まり応答が滑らかになった。比例が速さ、積分が正確さ、微分が安定を担い、三つで速く誤差なくよく減衰した応答を作った。これまでラウス、根軌跡、ボード、ナイキストで分析したループを、いま制御器を設計して望む形に作り上げたのだ。
PID は時間領域で三項を足して応答を作った。同じことを周波数領域で、ボード線図の位相と利得を直接狙って行う道具が補償器だ。次のユニット進み・遅れ補償では、極一つと零点一つからなる小さな伝達関数をループに挟む。進み補償器は交差周波数付近で位相を持ち上げて位相余裕を増やすので、微分項のように減衰と速さを加え、遅れ補償器は低い周波数で利得を増やして定常状態の正確さを高めるので、積分項のように誤差を減らす。PID の D と I がした仕事を、補償器はボード線図の上で位相と利得を形作る仕事として再び見せる。