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SC · 制御

PID 制御

PID 制御器は、偏差に三つのやり方で反応します。比例(P)は今の偏差に、積分(I)は積み重なった過去の偏差に、微分(D)は変わっていく傾向に反応します。この講では三つのゲインを動かし、P だけでは残る定常偏差を I が消し、行き過ぎと振動をゲインのつり合いで抑えて、応答が速く正確でなめらかになる過程を確かめます。

三つの項で応答を速く正確に

プラント G(s) = 1/((s + 1)(s + 2)) に PID 制御器をかけ、目標値 1(点線)を追わせます。金色の曲線は t = 0 から 12 までの閉ループのステップ応答で、下の表示欄の定常偏差と行き過ぎは、この 12 秒間の曲線から測った値です。最初は比例ゲイン Kp = 4 だけなので、出力は 4/6 ≈ 0.67 で止まり、定常偏差 0.33 が残ります。積分ゲイン Ki を上げると残った偏差が積み上がって出力を目標値まで押し上げ、Ki = 2 になるだけで 12 秒以内に偏差はほぼ 0 になります。ただし Ki を大きく上げると行き過ぎが大きくなるので、Kp と Kd もいっしょに調整して、速く偏差がなくなめらかな応答を探すことになります。

閉ループ階段応答 (破線 = 目標値)
比例利得 Kp4.0
積分利得 Ki0.0
微分利得 Kd0.0
三つの利得と応答
Kp = 4.0 · Ki = 0.0 · Kd = 0.0
定常偏差 = 0.33 · 行き過ぎ = 0.00
積分ゲインが小さいので、12 秒たっても出力が目標値に届きません(定常偏差 0.1 超)。比例項だけでは偏差が残っていてはじめて制御入力が生まれるので、定常状態で偏差が 0 になることはありえません。積分ゲイン Ki を上げると、残った偏差が積み上がって出力が目標値まで上がります。
誤差または振動が大

誤差の現在・過去・未来

PID 制御器は、目標値と出力の差である偏差 e(t) を一つ受け取り、三つのやり方で足し合わせて制御入力 u = Kp·e + Ki·∫e dt + Kd·de/dt を作ります。比例項は今の偏差に比例してすぐに反応し、偏差が大きければ強く、小さければ弱く押す、最も直観的な項です。積分項は偏差を時間とともに積み上げるので、小さな偏差でも長く残っていれば積分値が増え続け、ついにはその偏差を押し出します。微分項は偏差が変わる速さに反応するので、偏差が速く減っているときはもうすぐ行き過ぎることを先読みしてブレーキをかけます。三つはそれぞれ偏差の現在、過去、未来を見ているわけです。

観察u(t) = Kp·e + Ki·∫e dt + Kd·de/dt
PID は偏差に三つの項で反応します。
選ぶ定常偏差を消す項: ?
積分項が定常偏差を消します。
空欄減衰を加えて行き過ぎを減らす項: ?
微分項が減衰を加えて行き過ぎを減らします。
自分でD 項が増幅するもの: ?
微分項は雑音を大きくするので、ふつうフィルタを付けます。

P の限界、I の正確さ、D の安定

比例制御だけでは定常偏差が残ります。制御入力が u = Kp·e なので、定常状態で入力が 0 でない値を保つには偏差 e が 0 でない必要があるからです。この例のプラントは直流ゲインが 1/2 なので、Kp だけでは出力が Kp/(2 + Kp) で止まり、いつも目標値に届きません。積分項がこれを解きます。偏差が少しでも残っていれば積分が積み上がり続けて入力を大きくし、偏差がちょうど 0 になってはじめて止まるので、定常偏差は 0 になります。その代わり積分は原点に極を加えて位相を遅らせるので応答が揺れやすく、微分項は逆に位相を進めて減衰を加えます。比例で速さを立て、積分で偏差を消し、微分で減衰を補うのが PID の分業です。

調整と現実の落とし穴

PID は産業制御の標準の道具で、温度、速度、位置、流量のどこにでも使われます。三つのゲインを決めることを調整(チューニング)といい、速さと行き過ぎと頑健性が互いにからみ合っているので、一方をよくすると他方が損なわれます。古典的なジーグラ・ニコルス法は積分と微分を切って比例ゲインだけを上げ、システムがちょうど一定の振動を始める臨界ゲインとその振動周期を求めます。これが F1 ユニットのラウスと F4 ユニットのナイキストで見た安定の境目で、そこから表に従って三つのゲインを決めます。現実には落とし穴もあります。微分項は速い変化を大きくするので測定の雑音まで増幅し、ふつうは低域通過フィルタをいっしょに付けます。またこの図のように微分を出力側にだけかけて、目標値がステップ状に変わる瞬間に入力が跳ねるのを防ぐこともあります。さらに入力が限界に張り付いている間も積分が積み上がり続けると、あとで強く押しすぎる積分の蓄積(ワインドアップ)が起こるので、アンチワインドアップで防ぎます。

最初の画面に戻ると

最初の画面では、プラント G = 1/((s + 1)(s + 2)) に PID 制御器をかけて三つのゲインを合わせました。比例ゲインだけのときは、出力が目標値に届かずに止まる定常偏差が残りました。積分ゲインを上げると残った偏差が積み上がって出力を目標値まで正確に引き上げましたが、上げすぎると行き過ぎと揺れが大きくなりました。比例と微分をいっしょに調整して減衰を補うと、応答は再びなめらかになりました。比例が速さを、積分が正確さを、微分が減衰を受け持ち、三つがいっしょになって速く偏差がなくよく減衰した応答を作ったのです。これまでラウス、根軌跡、ボード線図、ナイキスト線図で解析してきたループを、いよいよ制御器を設計して望みの形に作り上げたわけです。

PID 制御器 u = Kp·e(比例、今の偏差)+ Ki·∫e dt(積分、積み重なった過去)+ Kd·de/dt(微分、変化の傾向)は、一つの偏差に三つの項で反応します。比例は速さを立てますが定常偏差を残し、積分は偏差が 0 になるまで積み上がって定常偏差を消し(その代わり位相の遅れ)、微分は変化を先読みして減衰を加え、行き過ぎを減らします(その代わり雑音の増幅、フィルタが必要)。調整は速さ、行き過ぎ、頑健性の間の引き換えで、ジーグラ・ニコルス法は臨界ゲイン(F1、F4 ユニットの安定の境目)から出発します。この例の閉ループ特性方程式は s³ + (3 + Kd)s² + (2 + Kp)s + Ki です。
次のユニットへ

PID は時間領域で三つの項を足して応答を形づくりました。同じことを周波数領域で、ボード線図の位相とゲインを直接ねらって行う道具が補償器です。次のユニット 進み・遅れ補償 では、極一つと零点一つでできた小さな伝達関数をループに挟みます。進み補償器は交差周波数の近くで位相を持ち上げて位相余裕を大きくするので、微分項のように減衰と速さを加え、遅れ補償器は低い周波数でゲインを大きくして定常の正確さを高めるので、積分項のように偏差を減らします。PID の D と I がしていたことを、補償器はボード線図の上で位相とゲインの形を整える仕事としてやり直します。