フーリエ変換の性質
畳み込みと掛け算が一緒に動く
上の図は、幅 1 の矩形パルス x と幅を変えられる矩形パルス h を畳み込んだ時間出力 y = x ∗ h で、金色の破線がその目標です。下の図では、薄い灰色の X と薄い青の H を点ごとに掛けた緑の曲線が出力スペクトル Y = X·H です。h の幅を動かすと上の畳み込みと下の積がいつもいっしょに変わり、上の図の出力が目標に届くと、下の積もその目標のスペクトルになります。
畳み込みが掛け算になる
フーリエ変換の核心の性質は畳み込み定理です。時間領域で y = x ∗ h なら周波数領域では Y(ω) = X(ω) H(ω) となり、滑らせて足す積分が、同じ周波数どうしの単純な掛け算に変わります。ここで H(ω) はインパルス応答 h のフーリエ変換、つまりシステムの周波数応答です。B 章で見た LTI の出力計算が、周波数では掛け算一回で終わります。
移動は位相、スケールは逆数
ほかの性質も変換を計算の道具にします。線形性により、入力の和と拡大は変換でもそのまま足され、掛けられます。時間移動では x(t − t₀) の変換が X(ω) に e^(−jωt₀) を掛けたものになるので、大きさ |X| はそのままで、位相だけが周波数に比例して傾きます。時間スケールでは x(at) の変換が (1/|a|)X(ω/a) なので、C3 で見た逆数の関係がそのまま性質になり、信号を時間で圧縮すると周波数で伸びます。
なぜこれが強力か
畳み込み定理が強力なのは、周波数領域では LTI システムが周波数一つ一つを別々に扱うからです。正弦波を LTI システムに入れると同じ周波数の正弦波が H(ω) だけ大きさと位相を変えて出てくるので、正弦波は LTI システムの固有関数で、H(ω) はその固有値です。だから複雑な畳み込みが、周波数ごとに独立した掛け算一つに分かれます。周波数ごとに H(ω) が何をするかが、次のユニットのテーマである周波数応答です。
最初の画面に戻ると
h の幅を動かすたびに、時間出力 y = x ∗ h と周波数出力 Y = X·H はいつもいっしょに変わりました。二つは同じ信号を時間と周波数から見た一組だからです。時間では滑らせながら足す畳み込みでしたが、周波数では二つのスペクトルを点ごとに掛けることで、幅がそろった瞬間に三角形と sinc² という一組が現れました。難しい演算をやさしい演算に変えるこの畳み込み定理こそ、フーリエが工学でこれほど使われる核心の理由です。
畳み込み定理は、システムのはたらきを H(ω) という一つの関数に収めました。次のユニット周波数応答ではその H(ω) そのものをのぞき込み、大きさ |H(ω)| は周波数ごとにどれだけ大きくしたり小さくしたりするかを、位相 ∠H(ω) は周波数ごとにどれだけ遅らせるかを表します。正弦波を一つ入れて出てきた正弦波の振幅比と位相差を測れば、システムがどの周波数を通し、どの周波数を止めるかが一目で分かります。