トルク-速度曲線と比例推移
回転子抵抗を大きくすると最大トルクはどうなるか
横軸が速度のこのグラフで、トルク曲線は滑りが小さい右側(同期速度の近く)では滑りにほぼ比例して上がり、滑りが大きい左側(停止側)ではまた下がってくる山の形です。回転子抵抗のスライダーを動かすと山が横へ移りますが、山の高さ(最大トルク)と山の位置(最大トルク滑り)のどちらが変わるのか、それがこの課の問いです。
トルクはすべりの山
等価回路の機械出力をトルクに直すと T ∝ sE2²R2 / (R2² + (sX2)²) の形になります。滑りが小さいときは分母で R2² が支配してトルクは滑りにほぼ比例して上がり(運転領域)、滑りが大きいときは (sX2)² が支配してトルクは滑りに反比例して下がります(始動直後の領域)。そのためトルク曲線はその間のどこかで頂点を迎える山の形になります。分子に起電力の二乗が入っているのでトルクは電圧の二乗に比例し、電圧が少し下がるだけでもトルクはそれ以上に減ります。
頂点で R2 が消える
トルクが最大になる滑りを求めるために式を滑りで微分して 0 とおくと R2 = sX2 というすっきりした条件が出てきて、最大トルク滑りは s = R2/X2 です。この滑りをトルクの式に戻すと分子と分母の R2 が約分されて、最大トルクは Tmax ∝ E2²/(2X2) となり R2 は消えます。最大トルクの大きさは回転子抵抗に関係なく電圧と漏れリアクタンスだけで決まり、固定子の抵抗とリアクタンスまで入れて計算してもこの結論は変わりません。
比例推移で始動トルクを買う
最大トルク滑りが s = R2/X2 であるということは、回転子抵抗を大きくすると最大トルクがより大きな滑りで起こるという意味です。山の高さはそのままで曲線全体が滑りの軸に沿って比例してずれ、これを比例推移といいます。巻線形回転子に外部抵抗を直列に入れて R2 を大きくすると、停止の滑り(s = 1)で最大トルクが出るように合わせられ、大きな始動トルクと小さな始動電流を同時に得られます。始動が終われば抵抗を外して運転の滑りを小さくし、効率を取り戻します。かご形は抵抗が固定なのでこのような調整はできませんが、深溝や二重かご形にして、回転子の周波数が高い始動時だけ実効抵抗が大きくなるよう設計し、似た効果を出します。
最初の画面に戻ると
回転子抵抗を大きくしても変わったのは山の位置で、高さではありませんでした。最大トルク滑りは s = R2/X2 なので抵抗に比例して動きますが、その滑りをトルクの式に戻すと R2 が約分され、最大トルクは Tmax ∝ E2²/(2X2) となって抵抗に関係しなくなります。抵抗は山の高さではなく位置だけを決め、曲線全体が滑りの軸に沿って比例してずれるこの比例推移のおかげで、巻線形は始動時に外部抵抗で最大トルクを停止の滑りに持ってきて大きな始動トルクを得て、運転時には抵抗を外して小さな滑りで効率を保ちます。トルクの山をどこに置くかは回転子抵抗が決めます。
トルク-速度曲線は誘導機をどう使うかの地図だ。曲線の左端(停止)で始動トルクと始動電流が決まり、右端(同期近く)で運転点が決まる。ところが停止からいきなり全電圧をかけると始動電流が定格の五、六倍に跳ね上がる。次のユニットはこの始動電流を抑える方法(Y-Δ・リアクトル・始動補償器)と、曲線ごと移して速度を変える方法(電圧・周波数・極数制御)を扱う(MC-C5)。