理想変圧器と巻数比
巻数比を回すと何が保たれるか
一つの磁束が二つのコイルをいっしょに通る図です。タブで巻数比を変えると、二次側コイルの電圧の棒の高さと電流の棒の太さがそれに合わせて変わり、一次側コイルの電圧と電流はそのままです。巻数比をどう変えても変わらない量は何か、それがこの課の問いです。
共有磁束が電圧比を作る
同じ磁束 Φ が二つのコイルをいっしょに通ると、各コイルの誘導電圧は巻数に比例します。V = N·dΦ/dt で dΦ/dt は二つのコイルに共通なので V₁/V₂ = N₁/N₂ となり、巻数比 a = N₁/N₂ がそのまま電圧比になります。一巻きあたりの電圧が二つのコイルで等しいと考えると分かりやすいでしょう。磁束が変化しないと電圧は生じないので、変圧器は交流でしか働かず、直流をかけると二次側には電圧が出ないまま、一次側のコイルに大きな電流だけが流れます。
電力保存が電流比を反転させる
理想変圧器は損失がないので、入った電力がそのまま出ます。V₁I₁ = V₂I₂。電圧が a 倍になれば、積が同じであるために電流は 1/a 倍にならなければならず、そのため電圧を上げる変圧器は電流を下げます。送電を高電圧 · 小電流で行う理由もここにあり、線路の損失は電流の二乗に比例するので、電圧を上げて電流を減らせば損失が大きく減ります。二次側に負荷をつないで電流が流れると、その起磁力の分だけ一次側の電流が増えて二つの起磁力が打ち消し合うので、磁束はそのまま保たれます。
インピーダンスも二乗比で変わる
二次側につないだ負荷 Z₂ は、一次側からは a²Z₂ に見えます。電圧は a 倍、電流は 1/a 倍なので、一次側から見たインピーダンスは V₁/I₁ = (aV₂)/(I₂/a) = a²·(V₂/I₂) となるからです。そのため変圧器は電圧と電流を変える装置であると同時にインピーダンスを合わせる道具でもあり、真空管アンプの出力トランスが高い出力インピーダンスをスピーカーの低いインピーダンスに合わせていたのがその例です。
最初の画面に戻ると
巻数比をどう変えてもそのままだったのは電力でした。分け合う磁束が電圧を巻数の比で変え、損失のない変圧器はその電圧の変化を電流の逆向きの変化でぴったり埋め合わせます。電圧を a 倍に上げると電流が 1/a 倍に下がり、積 VI = 200 W は固定されます。変圧器は電力をそのままにして、電圧と電流の組だけを変える装置です。
巻数比の変換は電力システムの骨組みです。ただし実際の変圧器は漏れ磁束や励磁電流、鉄損と銅損のためにこの理想から外れ、次の課ではその外れを等価回路に取り込んで効率と電圧変動率を計算します(MC-A4)。同じ磁束共有の原理は、誘導機や同期機の固定子–回転子の結合にもつながっていきます。